「先生、元気出して!オレからもヨハンには仕事に戻るように伝えるからさ!」
先生の愚痴を遮るには一番効果的な回答だろう。
実際、ヨハンにこれ以上迷惑を掛ける訳にもいかないし。
タレントは人気商売。
事務所から干されでもしたら、一大事だ。
「私の悩みを聞く前から分かっちゃうなんてすごいにゃ。先生と十代くんは以心伝心ですにゃ〜。十代くん、よろしく頼みますにゃ」
今日も先生は精力的に家事をこなしてくれたのだった。
昨日交わした、口から出まかせの先生との約束。
予想以上にヨハンの状況は悪化していて、先生の立場も危うくなっていたらしい。
今日は生放送のレギュラー番組の放送日。
生番組だけに穴は空けられない。
「おはようございますにゃ〜っ!ヨハン・アンデルセン、スタジオ入りますにゃ!」
オレは今日、場違いなテレビ局にいた・・・。
横にいる先生はスタジオですれ違う人に元気に声を掛け、ヨハンを売り込んでいる。
その姿は生き生きとしていて、現場が良く似合う人だなと思った。
昨晩、ヨハンはオレと先生の説得になかなか応じず、オレが付き添う事を条件に渋々承諾した。
今、スタッフと打ち合わせしているヨハンの姿は輝いて見える・・・。
オレの住む世界とは異なる、華やいだ世界。
ヨハンと先生には、この煌びやかな世界が一番似合っている・・・。
収録が始まると、オレと先生はスタジオの隅に移動し、ヨハンを見守る。
一週間のブランクを心配されたヨハンだが、本番が始まると払拭された。
安堵感からか先生が話し掛けてきた。
「いや〜、十代くん。助かりましたにゃ。感謝しますにゃ」
「いえ・・・」
感謝される事をオレは何一つしていない。
元々のヨハンの生活を乱して迷惑を掛けているのはオレの方だ。
改めて輝いているヨハンと先生の姿を見て、罪悪感に駆り立てられる・・・。
先生がいろいろ話し掛けてくる間、そう思ってるとまた先生が何か打ち明け出した。
「ねぇ、十代くん。私は今、もう一つ悩みがあってどうしたらいいのか迷ってるのにゃ。聞いてくれないかにゃ、先生の悩み」
悩み・・・。
よく悩んでるな、この人・・・。
どうしよう。
聞く
聞かない